encoding/json/v2のUnmarshalはこう変わった：内部実装で見る設計改善

# 概要
Go 1.25で実験的に導入されたencoding/json/v2は、v1から大きく設計を見直しました。現在はまだ実験的な立ち位置ですが、今後標準パッケージとして採用される可能性があります。本LTでは、Unmarshal関数の内部実装を比較しながら、(1)パッケージ分離による責務の明確化、(2)sync.Poolによるメモリ効率化、(3)4つのセグメントバッファ設計という3つの改善ポイントを解説します。標準ライブラリの進化から学ぶ、実践的な設計改善のお話です。

# 発表内容の詳細
## 背景と動機
encoding/json(v1)には以下の課題がありました

- パフォーマンス: Decoder.Token()のメモリアロケーションが多い
- 設計: 低レベル処理（構文解析）と高レベル処理（型変換）が混在
- 拡張性: カスタマイズオプションが限定的

v2ではこれらを根本から見直し、パフォーマンスと保守性を両立させています。

# 主な内容（5分構成）

## 1. パッケージ分離とexport変数（1分30秒）

v2の2層アーキテクチャ:
┌─────────────────┐
│ json パッケージ │ ← 高レベル（Go型への変換）
└─────────────────┘
↓ export変数
┌─────────────────┐
│ jsontext │ ← 低レベル（構文解析）
└─────────────────┘
安全な内部API制御:
```
var export = jsontext.Internal.Export(&internal.AllowInternalUse)

// jsontextの内部機能を安全に利用
dec := export.GetBufferedDecoder(data, opts...)
```

**学べるポイント:**

- 責務の分離による保守性向上
- internal パッケージ + export パターンによるアクセス制御

## 2. sync.Poolによるメモリ効率化（1分30秒）

構造体サイズの変化:
```
// v1: 約200バイト → 毎回初期化でもOK
type decodeState struct { ... }

// v2: 約3KB（15倍！） → プールで再利用が効果的
type decoderState struct { ... }
```

**プールの効果（秒間1000リクエストの場合）:**

- プールなし: 1000個 × 3KB = 3MB/秒のアロケーション
→ 頻繁なGC → レスポンス悪化

- プールあり: 数個 × 3KB = 約30KB（100倍効率的）
→ GCほぼなし → 安定したパフォーマンス

実装例:
```
// プールから取得・返却
dec := bufferedDecoderPool.Get().(*Decoder)
defer putBufferedDecoder(dec)

// reset()で再初期化
dec.s.reset(data, nil, opts...)
```

**学べるポイント:**

- 大きなオブジェクトはsync.Poolで再利用
- 構造体サイズが設計判断に影響

---

## 3. 4つのセグメントバッファ設計（1分30秒）

**decoderBufferの設計:**
```
buf: [...................................]
0 prevStart prevEnd len cap
| | | | |
既読 前回値 未読 未使用

不変条件: 0 ≤ prevStart ≤ prevEnd ≤ len(buf) ≤ cap(buf)
具体例:
json{"name":"Alice","age":30}
```

"Alice"を読んだ直後:
```
buf: [{"name":"Alice","age":30}]
↑ ↑
prevStart prevEnd

既読部分: {"name":"Alice"
前回の値: "Alice" ← エラー報告に使用
未読部分: ,"age":30}
```

この設計の利点:

- エラー時に問題の値を正確に報告できる
- ストリーミング処理が効率的
- メモリを節約しながら必要な情報を保持

**学べるポイント:**

- 状態管理の設計パターン
- エラーハンドリングを考慮した設計

## 4. まとめ（30秒）
v2から学べる実践的な設計パターン:

- 責務の分離 - 低レベルと高レベルを明確に分ける
- 安全な内部API - export + internal パッケージ
- オブジェクト再利用 - sync.Poolの効果的な使用
- 状態管理 - 4セグメント設計

これらは標準ライブラリだけでなく、日々の開発でも応用できる考え方です。